いい匂い食べ物・飲み物
納豆(良い面)
Natto - The Acquired Aroma
香りの強さ:強いにおい
臭気の客観指標
臭気強度(6段階臭気強度表示法)
4 / 5
強いにおい
根拠: 環境省 6段階臭気強度表示法(悪臭防止法)
基準: 悪臭防止法 6段階臭気強度表示法(環境省)
嗅覚閾値(検知閾値)
0.0016 ppm
代表成分: Tetramethylpyrazine
出典: van Gemert, Odour Thresholds, 2011
※ 臭気強度は環境省「6段階臭気強度表示法」に準拠した感覚的評価値です。嗅覚閾値はヒトが検知できる最低濃度で、値が小さいほど少量で匂いを感じます。
香りの説明
枯草菌(Bacillus subtilis var. natto)が大豆を発酵させて生まれる、独特のアンモニア系発酵香。ピラジン類のロースト香とジアセチルのバター様の香りが混じり合い、慣れた人には食欲をそそる「旨味の香り」として知覚される。
主な化学物質
ピラジン類(テトラメチルピラジン)ジアセチルイソ吉草酸アンモニアジメチルトリスルフィド
暮らしとの関わり
- 日本の発酵食文化と結びつく
- 朝食の定番として親しまれる
- 香ばしさと発酵臭が重なる
- 好みが大きく分かれる香り
エビデンス
1994Journal of Agricultural and Food Chemistry (Sugawara et al.)
納豆の揮発性成分をGC-MSで包括的に分析し、テトラメチルピラジン、ジアセチル、イソ吉草酸が主要成分であることを報告。発酵時間と各成分の濃度変化を追跡。
2003Chemical Senses (Herz)
匂いの好悪が文化的条件づけに強く依存することを実験的に実証。幼少期からの反復曝露が嗅覚の報酬系を再編し、本来忌避的な匂い(発酵臭等)をポジティブに知覚するようになるメカニズムを解説。
トリビア
- 納豆の匂いは好悪が大きく分かれるが、これは嗅覚の「条件づけ」による。幼少期から納豆を食べている人は脳の報酬系が納豆臭をポジティブに処理し、初めて接する人は扁桃体が嫌悪反応を示す。嗅覚の可塑性の好例である。
- 納豆の匂いの主因はイソ吉草酸やアンモニアなど単体では不快な成分だが、ピラジン類やジアセチルなどのポジティブな香りと混ざることで「旨味の複雑な香り」として統合される。この現象は「嗅覚のゲシュタルト知覚」と呼ばれる。
- 納豆の粘り(ポリグルタミン酸とレバン多糖体の複合体)が糸を引く際にVOCを気相に効率よく放出するため、かき混ぜるほど香りが強くなる。関東地方では「100回混ぜると美味しくなる」と言われるのは香りの増強効果も一因である。

編集部の解説
納豆は、むわっと立ち上がるアンモニア系の発酵香を持つ食べ物です。強烈な発酵臭の中に、ローストしたような香ばしさ、バター様のまろやかさ、さらに旨味を思わせる複雑さが重なります。好悪が大きく分かれる一方、慣れた人には「旨味の香り」として感じられます。
この香りは、枯草菌(Bacillus subtilis var. natto)が大豆を発酵させることで生まれます。アンモニアやイソ吉草酸が発酵らしい個性をつくり、ジメチルトリスルフィドが香りに厚みを加えます。そこへ、テトラメチルピラジンを含むピラジン類のロースト香と、ジアセチルのバター様の香りが重なり、単一ではない「納豆らしさ」になります。
納豆は、日本の発酵食文化と結びついた香りです。朝食の食卓でおなじみの存在ですが、初めて接する人には強く感じられ、幼少期から食べてきた人には親しみのある香りとして受け取られます。関東地方では「100回混ぜると美味しくなる」と言われる習慣もあり、かき混ぜる動作と香りの立ち方が身近に結びついています。
楽しみ方のコツは、混ぜる前後で香りの表情を比べることです。納豆の粘りは、かき混ぜるほど香りを立たせます。強い発酵臭だけで判断せず、アンモニア系の香り、香ばしさ、バター様の香りがどう重なるかに注目すると、納豆特有の複雑さを捉えやすくなります。好みの違いも含めて味わえる、暮らしに根づいた香りです。