本文へスキップ
臭い匂い生活環境注意

製紙工場

Paper mill odor

香りの強さ:強烈なにおい

臭気の客観指標

臭気強度(6段階臭気強度表示法)
5 / 5
強烈なにおい
根拠: 環境省 6段階臭気強度表示法(悪臭防止法)
基準: 悪臭防止法 6段階臭気強度表示法(環境省)
嗅覚閾値(検知閾値)
0.00007 ppm
代表成分: Methyl mercaptan
出典: Nagata Y. (2003), JAOE database entry #12

※ 臭気強度は環境省「6段階臭気強度表示法」に準拠した感覚的評価値です。嗅覚閾値はヒトが検知できる最低濃度で、値が小さいほど少量で匂いを感じます。

香りの説明

クラフトパルプ製造工程で木材チップを苛性ソーダと硫化ナトリウムで蒸解する際に発生する、腐った卵と腐ったキャベツが混じったような強烈な硫黄系悪臭。

編集部の解説

製紙工場のにおいは、腐った卵と腐ったキャベツを混ぜたような、強烈な硫黄系の悪臭です。刺激的でツンとする印象があり、屋外や都市部で、広い範囲に漂うことがあります。一般的な「紙」のイメージとは異なる、製造工程に由来するにおいです。

クラフトパルプ製造では、木材チップを苛性ソーダと硫化ナトリウムで蒸解します。このとき、リグニンに含まれる硫黄結合が切断され、メチルメルカプタンやジメチルスルフィドへ変換されます。硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、さらにテルペン類などが重なり、腐敗を思わせる複雑なにおいになります。

この「クラフト臭」は、製紙工場の周辺で暮らす人々が工場の存在を感じる、生活環境のにおいの一つです。日本の製紙産業では、1970年代の公害問題を経て臭気対策が進み、排出量は当時の1/10以下に削減されています。過去の産業と環境対策の歴史を、においから知る手がかりにもなります。

メチルメルカプタンはごく微量でも検知されやすく、複数の硫黄系成分が重なると印象はさらに強まります。出会ったときは無理に近づいたり集めたりせず、腐った卵やキャベツに似た特徴、刺激の強さ、漂う場所を観察する程度にとどめるのが扱い方のコツです。

主な化学物質

硫化水素 (H2S)メチルメルカプタン (CH3SH)ジメチルスルフィド ((CH3)2S)ジメチルジスルフィド (DMDS)テルペン類

暮らしとの関わり

  • 広範囲に漂う生活環境の悪臭
  • 腐った卵を思わせる印象
  • 製紙工場を示すクラフト臭
  • 公害対策の歴史を伝えるにおい

対策

  • 回収ボイラーでの臭気ガス焼却処理
  • 密閉型蒸解釜の使用
  • 排ガスの脱臭処理(活性炭・薬液洗浄)
  • 操業条件の最適化

エビデンス

2003Atmospheric Environment (Bordado & Gomes)

クラフトパルプ工場の排ガスを分析し、蒸解工程でメチルメルカプタン(50-200 ppm)、硫化水素(100-500 ppm)が発生することを定量化。回収ボイラーでの焼却処理の効率を報告。

1999Critical Reviews in Environmental Science and Technology (Smet et al.)

製紙工場の臭気成分である還元硫黄化合物(TRS: Total Reduced Sulfur)の生物学的脱臭技術をレビュー。バイオフィルターが95%以上の硫黄化合物除去率を達成できることを報告。

トリビア

  • 製紙工場の「クラフト臭」はリグニンに含まれる硫黄結合がクラフト蒸解液で切断されてメチルメルカプタンやDMSに変換されることで生じる。
  • メチルメルカプタンの嗅覚閾値は約0.07 ppbと極めて低く、人間の嗅覚で最も敏感に検知できる化合物の一つであるため、微量でも不快に感じる。
  • 日本の製紙産業では1970年代の公害問題を経て臭気対策が大幅に進み、現在の排出量は当時の1/10以下に削減されている。